低温域産業排熱から約2倍の温度差で熱回収が可能な吸収冷凍機を開発

―工場排熱や地域熱供給ネットワーク等への活用促進に期待―

2017年5月16日

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合

日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社

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NEDOプロジェクトで、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)の組合員である日立ジョンソンコントロールズ空調(株)らは、産業排熱等の利用可能温度をより低温域まで拡大し、従来の約2倍の温度差で熱回収が可能な一重効用ダブルリフト吸収冷凍機「DXS」の開発に成功しました。 今回開発した「DXS」を使用することにより、排熱利用温度範囲が拡大し、工場排熱や地域熱供給ネットワーク等における未利用熱の活用促進が期待されます。

図1 開発した一重効用ダブルリフト吸収冷凍機「DXS」

        

 

 

1.概要

現在、運輸・産業・民生の分野において、一次エネルギーの半分以上が利用されずに排熱として捨てられています。このような背景のもと、NEDOは利用されることなく環境中に排出されている膨大な量の未利用熱に着目し、その「削減(Reduce)・回収(Recycle)・利用(Reuse)」を可能とするための革新的な要素技術の開発と、システムの確立を目指した「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」※1を2015年度から実施しています。具体的には、産業排熱等の利用可能温度をより低温域まで拡大し、一般空調の冷房用途や、さらに低温を必要とする冷蔵、冷凍用途にも利用可能な低温駆動ヒートポンプの研究開発を実施しています。

今回、TherMATの組合員である日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社と株式会社日立製作所は、熱駆動ヒートポンプの一つである従来の一重効用吸収冷凍機にダブルリフトサイクルと吸収液の循環にパラレルフロー方式※2を採用し、試作機の設計、製作および試験評価を共同で実施しました。その結果、95℃の温水排熱について、従来は75℃までの熱しか回収できなかったところを、より低温域の51℃まで熱回収できる(冷水入口12℃→出口7℃、冷却水入口27℃→出口33℃の仕様の場合)一重効用ダブルリフト吸収冷凍機「DXS」の開発に成功しました。

今回開発した「DXS」を使用することにより、低温排熱からの熱回収量が一重効用吸収冷凍機の約2倍に増加されることから、排熱利用温度範囲が拡大し工場排熱や地域熱供給ネットワーク等における未利用熱の活用促進が期待されます。日立ジョンソンコントロールズ空調(株)は、本開発技術を適用した吸収冷凍機を製品化し、2017年4月から販売を開始しました。  

 

2.一重効用吸収冷凍機と一重効用ダブルリフト吸収冷凍機「DXS」の概要と特長

 

【1】一重効用吸収冷凍機(従来機) <概要>一重効用吸収冷凍サイクルについて 図2に示す4つの熱交換器で構成され、駆動熱源の温水から熱を得て吸収液(LiBr水溶液)から冷媒(水)を再生し、「蒸発→吸収→再生→凝縮」と循環させるサイクルで、蒸発器で冷水を作ることができます。図2は冷媒の再生に95℃の温水から75℃までの熱を利用するサイクル例となります。

 

【2】一重効用ダブルリフト吸収冷凍機「DXS」(開発機) <概要>一重効用ダブルリフト吸収冷凍サイクルについて 今回採用した一重効用ダブルリフト吸収冷凍サイクルは、図3に示すように一重効用吸収サイクルに低温再生器、補助吸収器および補助再生器を加えた構成を有しています。また、吸収器で蒸発器から蒸発した冷媒を吸収した吸収液は高温再生器と低温再生器に並行して循環させるパラレルフローとします。ダブルリフトサイクル過程では、

1.低温再生器において、高温再生器で熱回収後の低温となった温水熱で冷媒を再生します。
2.補助吸収器において、再生した冷媒を吸収させ補助再生器に送ります。(この過程により、冷媒は高濃度・高温の吸収液から低濃度・低温の吸収液に移動します)
3.補助再生器において、低温再生器で熱回収した後のさらに低温となった温水熱で冷媒を再生します。
4.再生した冷媒(水蒸気)は凝縮器で液化させ蒸発器に送ります。
5.蒸発器で冷媒を蒸発させることで冷水を作ります。

このように従来の一重効用吸収冷凍サイクルに上記のダブルリフトサイクルを組み合わせることで、95℃の温水の熱を2回の冷媒再生に利用して51℃まで回収することが可能となります。

図2 一重効用吸収冷凍サイクル

図3 一重効用ダブルリフト吸収冷凍サイクル 

    

<特長>

(1)温水単位流量当りの冷熱変換量が倍増ダブルリフトサイクルを採用することで、駆動熱源である温水の単位流量あたりの熱回収量を大幅に増やし、排熱をより多く利用して、冷熱への変換量を従来機に対して約2倍とすることを可能としました。(図4)

 

【計算条件】

・冷水温度 入口12℃→出口7℃

・冷却水温度 入口27℃→出口33℃

・温水温度 入口95℃、温水流量 一定 

図4 冷熱変換量比較

(2) 温水搬送動力を半減 より低温度域までの大温度差熱回収が可能なため、同じ熱量の回収に必要な温水流量を従来よりも減らすことができ、搬送動力を従来機の約半分に削減可能としました(図5)。また、温水循環ポンプのダウンサイジングおよび温水配管の小径化により設備工事費の低減が可能です。

 

【計算条件】

・冷凍能力 一定

・冷水温度 入口12℃→出口7℃ ・冷却水温度 入口27℃、冷却水流量 一定

・一重効用ダブルリフト温水温度

入口95℃→出口51℃ (温度差44℃)

・一重効用温水温度(従来機の場合) 

入口95℃→出口75℃ (温度差20℃)

図5 温水搬送動力比較

<開発機の主な仕様> 日立ジョンソンコントロールズ空調(株)は、2017年4月から本技術を適用した吸収冷凍機の販売を開始しました。主な仕様は下表の通りです。

 

  3.今後の予定

NEDOは、引き続き本プロジェクトの研究開発を推進し、工場の製造プロセスや地域熱供給ネットワーク等、多様な状況で発生している未利用熱の有効活用を可能とする技術を提供してまいります。  

 

【用語解説】

※1 未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発

プロジェクトリーダー 小原春彦氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域 研究戦略部 研究戦略部長)のもと2013年度~2022年度(うち2013~2014年度は経済産業省にて実施)で革新的な技術の研究開発を行う。

※2 パラレルフローサイクル

吸収冷凍機のサイクルフローのひとつ。吸収器から出た吸収液を高温再生器と低温再生器へ並行に循環させるサイクルフロー。その他にシリーズフローやリバースフロー等がある。

by Hitachi Cooling & Heating
16 May 2017

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